皆で認知症の人の苦痛の緩和ケアを/佐藤典子

2024年4月16日
 

“人生100年時代”となり、多くの人が穏やかな人生を過ごしていきたいと考えるのではないだろうか。2023年認知症基本法は、誰にとっても身近なものとなった認知症に、国民全体で向き合うべく成立された。そこには、「認知症の人を含めた国民一人一人がその個性と能力を十分に発揮し、相互に人格と個性を尊重しつつ支え合いながら共生する活力ある社会」と「自らの意思によって日常生活及び社会生活を営むことができるようにすること」として、ケアする・されるという関係性から脱却した、認知症の人を含む「共生社会」という社会像が示された。

このような社会が、実現するためには、認知症の人の体験している苦痛の理解とケアが急務となってくる。 緩和ケアというと終末期のケアや癌性疼痛のケアというイメージがあるが、認知症の人の苦痛は、発症の時から終末期を通しての苦痛がある。診断を受ける前から多くの悩みや不安を抱え、診断を受けた直後は、身体的な問題がなければ介護保険を使用する要件が見当たらず、本人と家族は不安や生活障害からくる苦痛、「何で自分が」という思いと闘いながら孤独に生活していかなければならない。

また、病状が進行してくると自分でできるにもかかわらずに、“忘れてしまう”“時間がかかる”と画一的な見方や偏見から、自分でできることを制限され、喪失からくる悲嘆さえ感じられていないと思われてしまう。認知症の人の言動をBPSDとして問題視し、その言動の背景には様々な苦痛があることを周囲の人は気づいていない。さらには、周囲の人の良かれという思うケアが、認知症の人の自尊心を低下させてしまう現実がある。

一方では、ケアや治療を提供する人々の中には、「本当にこれでいいのか」と認知症の人への治療・ケアについてのジレンマを抱えているスタッフが多くいる。
地域では、チームオレンジ、認知症カフェなど認知症の人の苦痛を生活の面から支援しようとする取り組みが行われている。そのため、認知症の人の日常に起こる苦痛から、身体疾患や人生の最期に向かう中で起こる苦痛について、誰もがなりうる認知症について自分事として、認知症に関わる専門職から、ひいては地域の住民が皆で認知症の人の苦痛の緩和ケアを考え協働し、提言していく必要がある。

佐藤典子(さとう・のりこ)
順天堂東京江東高齢者医療センター