最期まで「一人の人格をもった人」として生を全うできるよう支援したい/西山みどり

2024年4月16日
 

日頃、「認知症だけにはなりたくない」という言葉をよく耳にする。背景には、自分で自分のことが分からなくなっていく不安や、他人に迷惑をかけてしまう情けなさや申し訳なさがあるのかもしれない。また認知症の人がケアを受けている場面を見て、あんなケアは受けたくないと思っておられるのかもしれない。

いずれにせよ、認知症に対する誤解や偏見にあふれ、認知症の人が心から安心して生活できる環境にはなく、ただただ認知症を患うことに恐怖を感じる世の中ということを現しているのだと思う。今後、超高齢社会で暮らす者として、そして専門職として、「認知症だけにはなりたくない」を払拭するため、認知症の人に対する緩和ケアの考え方を浸透させたい。

認知症の人が抱える苦痛は、不十分な身体症状緩和、軽んじられるコミュニケーション、本人不在の意思決定など多岐にわたるが、私はまず認知症の人に対する否定的な見方を変えていきたい。認知症を患うと、『何も分からない人』『何もできない人』というレッテルが貼られ易い。これにより認知症の人は、自己肯定感や自尊感情を低下させ、存在意義を見失う。そしてこれが、スピリチュアルペインになっていく。しかもなお、認知症の人にはスピリチュアルペインを感じる力も無いと思われ、何のケアもされていない。

これまで認知症の人と関わる中で、「自分が認知症になった途端、誰もまともに話をしてくれなくなった」や、「人の手ばかり煩わせて、何のために生きているのかと情けなく思う」など、多くの苦痛を聞いてきた。私はこのスピリチュアルペインを目の当たりにし、『認知症の診断を受けたことでこれまでの人生が全否定され、これからの人生に絶望しかない社会であってはならない』ということを強く訴えたい。

そのために緩和ケアの考え方を用い、認知症の人が被る不利益を一つでも無くし、最期まで一人の人格をもった人として生を全うできるよう支援したい。そして私もそう支援されたい。

西山みどり(にしやま・みどり)
有馬温泉病院