「日常倫理」が問われる緩和ケア /桑田美代子

2024年4月16日
 

他人事ではない認知症  

認知症は他人ごとではない。3人に一人が認知症になる時代が到来すると言われている。超高齢多死社会を迎えている我が国だからこそ、国民の誰しもが認知症について考えることが必要である。自分の親が、自分が認知症になったらどのようなケアを受けたいか。医療職だけでなく認知症の緩和ケアを考えることはわが国全体、ひいては世界の認知症の緩和ケアの道を拓くにことになる。

科学的根拠だけでは語れない認知症の人のケア  

科学では解明できないことがある。その人自身のこれまでの生きてきた過程、生活、暮らし、文化が認知症の人の行動を紐解くカギになることが少なくない。科学だけで追及するのではなく、その人にフォーカスを当てる。その人を取り巻く人に焦点を当て、共に考えるのが認知症ケアである。それが認知症の緩和ケアの第一歩である。

基本的緩和ケアと専門的緩和ケア:多職種チームアプローチ  

緩和ケアには基本的緩和ケアと専門的緩和ケアという考え方がある。 「基本的緩和ケア」とは、すべての医療従事者が提供することが必要な緩和ケアの知識や技術、能力を指すことであり、一般的には、痛みなどの苦痛を緩和するマネジメントの技術や、コミュニケーションを図る能力、多職種で協働する能力。 「専門的緩和ケア」とは、基本的な緩和ケアでは対応が困難な複雑で難しい症例に対して、専門的な知識や技術をもって、臨床的に解決を図る技術、能力と言われているが、「基本的緩和ケア」が実践されていないのに、「専門的緩和ケア」は提供できないのではないだろうか。認知症の緩和ケアは、本人・家族等とその人たちに関わる全ての人たち、職種で共に歩む必要がある。

「日常倫理(everyday ethics)」が問われる認知症の緩和ケア:日々のケアが緩和ケア  

認知症ケアの日常は、常に倫理的判断の繰り返し、倫理的感受性を基盤とするケア技術であり、高度な能力が必要なケアである。そして、それこそがスピリチュアルケアにつながると考える

わが国には、認知症のケアが存在しない時代があった。それが症状緩和を目的とした時代、認知症の人の人権擁護のケアの時代を経て、全人的なケア、そして、認知症の緩和ケアを創り推進する時代と移りかわってきたと感じている。

桑田美代子(くわた・みよこ)
青梅慶友病院